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高森明勅
2021.8.24 09:00日々の出来事

わが郷里・倉敷で亡母の1年祭

昨年の8月27日に母が亡くなった。86歳だった。

新型コロナ禍のせいで、満足に顔を見せることも出来ないままだった。
最も心残りだったのが、楽しみにしていた曾孫が折角、
同じ年の3月に生まれていながら、最後まで直接会うのが
かなわなかったことだ。

幸い、特に苦しむこともなく、息を引き取った。
それが、せめてもの慰めだ。

1年祭は勿論、亡くなった当日に行えれば一番良い。
しかし、9月末に刊行予定の拙著の再校が25日に出て、
それを30日には戻さなくてはならない。
編集サイドでは三校も見るものの、著者が目を通せるのは原則として再校まで。
初校と同様に校閲上の指摘への対処もあり、
この期間は書斎に籠って作業に没頭したい。
そこで前倒しして、21日に行うことにした。
この種の祭典は、先延ばしは故人への非礼に当たるが、
前倒しは常識の範囲内で一応、許される。
母の霊も恐らく許してくれるだろう。

祭典は、私の生家(倉敷市内)の神棚がある客間で行った。
神社の神職には頼まず、私自身が奉仕する(高森家の宗教は、
祖母の代まで浄土宗だったが、祖母が亡くなった後、
父の代で神道に改宗した)。

長男一家も参列する予定だったのに、長女(私にとっては孫)が
夏風邪で急に熱を出してそれが出来なくなくなったのは、やむを得ない。

その代わりではないが、私の末弟の次女が今年7月に結婚しており、
その旦那さんも参列してくれた。
可愛い姪っ子が、旦那を横に座らせて、ポタポタ涙を落とし、
言葉に詰まりながら、霊前で心を込めて結婚の報告をしていたのが、
この度の祭典中、取り分け印象に残る場面だった。

祭典が終わると、市内の山の上にある高森家の墓参り。
「高森家之奥津城(おくつき)」と刻んである。
順調に行けば、次にこの奥津城に入るのは私のはずだ。

その後、個室のある料理屋で会食。
ビールから地酒へと、昼間からアルコール類を飲んだのは
私だけだった。
来年は、64歳(今の私の年齢だ)で亡くなった父の30年祭に当たる。
念の為に、その事実を一同に伝えておいた。

今回、倉敷に向かう新幹線の中で読んだのは
倉田百三の『法然と親鸞の信仰』(講談社学術文庫)。
思った以上の名著だった。
神道・仏教・キリスト教など宗教に関心がある人は勿論、
人生について深く省察しようと考えている若い世代には、
一読を勧める(平易明快で力強い文体ながら、読書の習慣が無い場合、
少し難しく感じるかも知れない)。

その一節。

「普通の倫理では『悪を抑えて、善を行え』というが、
それは実に簡単な、表面的な考え方で、人間の内面の機根や、性格や、
業(ごう)というものの不随意性や、善、悪というものそれ自体の
不可知性を知らないからで、誠に浅い、苦労のない考え方である。
そんな事で、悪を抑えて、善が行えるものなら、
世の中に悪をつくるものは1人もいない」

東京に向かう新幹線で読んだのは、
水谷千秋氏の新刊『女たちの壬申の乱』(文春新書)。
水谷氏の著書は(学説上の賛否はともかく)これまでに何冊も読んでいる。

他に、鶴見俊輔氏『埴谷雄高』(講談社文芸文庫)を鞄に入れていた。
しかし、読み終える時間がなかった。
倉田・鶴見の著書は、どちらも最近、神保町の古本屋「手文庫」
で手に入れたもの。

倉敷に滞在中、時間を作って美観地区の
古本屋「ムシ(虫×3)文庫」に立ち寄った。
取り敢えず購入したのは、以下の6冊。

高尾利数氏『イエスとは誰か』(NHKブックス)、
原武史氏『一日一考 日本の政治』(講談社現代新書)、
佐藤正英氏『親鸞入門』(ちくま新書)、
赤坂憲雄氏編『追悼記録 網野善彦』(新書y)、
小林秀雄氏『考えるヒント ランボオ・中原中也』(文春文庫)、
とり・みき氏『山の音』(ちくま文庫)。

以前、ジョン・ドミニク・クロッサンの
『イエスとは誰かー史的イエスに関する疑問に答える』(新教出版社)を読んだ。
同じタイトル(但しサブタイトルは無し)の高尾氏の著書は、
それが翻訳されるより前に刊行されていた。

佐藤正英氏は大著『歎異抄論釈』の著者。
『山の音』の解説は山上龍彦氏が執筆している。

なお、10月に岡山での開催が予定されているゴー宣道場には、
私の弟ら身内4名が参加を希望している。

【高森明勅公式サイト】
https://www.a-takamori.com/

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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